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モデルとしてのキャリアを確立した30代で、アートの分野でゼロからのリスタートを選択。人生という旅を楽しみ進化を続ける、アンジェラ・レイノルズの過ごす「時」に触れてみたい。

「この人生の使命は旅をすることだと、2、3歳の頃からはっきりと意識していました。一般的な旅行という意味ではなく、大地と直接的に関わり、人や動物と触れ合い、宇宙をより深く知りたいという気持ちが大きくて。幼い頃から、何かを発見すること、理解することを常に求めてきた。自分が興味をもった物事に対しての好奇心が旺盛なんでしょうね」

モデル、ジャーナリスト、ジュエリーデザイナー、世界各地のワークショップで数週間を過ごすこともあるヨガの探求者でもある。そして現在、アンジェラ・レイノルズは、彼女の時間の大部分をギャラリストとしての仕事に注いでいる。

「自分は何かを深く掘り下げる作業をする必要がある、ということには早い段階から気付いていたんです。ただ、それが何なのか。自分がコミットしたい、コミットできるものは何なのかがはっきりするまでには何年も費やしました。そんな中、ジャーナリストとして多方面の方々にインタビューをさせていただく時、いつも壁として立ちふさがるのがコンテンポラリーアートだった。自分の知識不足で、核心に踏み込むことができないまま終わってしまう。そんなことを何度か経験した時に、ああ、これはもう向かっていくしかないな、と。それからは、ひたすらギャラリーや美術館のオープニングに足を運びました。観る対象を自分の感覚で決めるのではなく、オープンマインドで世の中に何があるのか発見しに行った。キュレーター、ギャラリスト、アーティスト、コレクター、いろいろな方と会話を重ねるうち、このままアートの世界で仕事がしたいと望んでいる自分に気付きました」

アート界の人間としても会社員としても「完全にゼロの状態」で、チャレンジングな行動だったと当初を振り返るアンジェラ。だが、企画の背景にある哲学やメッセージを読み取り、テーマに関連するレファレンスを調べ上げるなど、彼女がモデルとしても常に“掘り下げる人”であったこと、そうした経験値の積み重ねがあったからこそ、変化を恐れず新たな一歩につなげることができたことは間違いない。「“どんなものが材料になっていて、どう使うべきか”みたいな感覚、クリエイティブプロセスに関してはモデル経験の中で培ってこられたのかなと思います。また、マネジメントされる側の気持ちやテリトリーに対する考え方なんかも、今、アーティストとの関係性の中ですごく役立っているなと感じます」

「常に変化していたいし、進化していきたい」そう語るアンジェラは、未開の土地を一つ一つ踏破するように、自らの世界地図を拡大してきた。その凛としたたたずまい、静謐な表情、知的なまなざしを見ていると、彼女の中には強い軸があり決して揺らぐことがないようにも感じられる。

「人生に関してもプライベートに関しても、もう少し力を抜いてもいいのではと思うくらい真面目に向き合っているので、もちろんさまざまな感情も湧きますし、特に自分に対してのフラストレーションや未解決な感情もたくさんある。日本では感情表現が少しトーンダウンするので、海外にいる私と会うと、全然印象が違うかも(笑)。ただ、生きていること、人と関われることが、本当にありがたいことだと思っていて、仕事をすること自体も大好きなので、そこに対しての気持ちが安定しているのかもしれないですね」

「自分の弱い部分にきちんとアプローチしていかないと、進化することはできないと思っています。自分の弱さって、自分自身で分かっていますよね。そこに対して正直になれないと、常に頭の中に引っかかっていて、表面的にどれだけ輝いていても、結局その弱さに引っ張られてしまう」

人との関わりにおいても「正直でいられること」が理想だという。「自分にとって何が大切なのかに気付いて、それを実現し、その価値観で生きていくことが、人生の素晴らしい楽しみ方かな、と。その人が正直な気持ちでそこに存在していられるように。あ、そうだった、これが自分にとって大切なことだったなと気付けるよう、会話だったり、アートワークや音楽を通してだったり、その手助けになるような関係性を築きたい」

「いちばん充実感を得られるのは人と笑い合っている時。愛する人とエネルギーを共有する、それ以上に幸せなことはない。ほんとうに幼い頃に母を亡くし、自分の命も落としそうになったこともあった。いろいろな経験の中で、人との時間がどれだけ尊いものなのか、何度も何度も感じさせられてきました。限られた時間の中、目の前に大切な人がいるうちに、伝えるべきことを伝えたいという思いは強いですね。ただ、時間が有限である一方で、心に刻まれた時間は永遠だとも思っています。だからこそ、そんな豊かな時間をたくさん作れるよう、心を保ち、環境を整えたい。自分の状態を整えておくことが、とても大切だと思います」

「家族ができた時、それまでの仕事最優先の姿勢を続けていたら、全ての皺寄せが家庭にくるなと感じました。究極的に私はどちらを取るだろうと考えてみたら、自分でも驚くほどあっさり“家庭”という答えが出てきたんです。それからは、フレックス気味にしてもらうなど働き方をシフト。また、完璧を求めたり、ベストにたどり着くまで向き合い続ける仕事での姿勢は、子どもと接する時には切り替えて、線引きするようにしています。そんな中で、仕事のプロセスでも、厳しさと優しさのバランスを取っていくことの大切さを感じるようになりました。アートの世界も人間相手の仕事ですから。ただ、最終的にクオリティーを妥協することは“絶対に”できない。これはやはり、私の使命なんだろうなと感じます」



アンジェラ・レイノルズ/10代でモデルデビューし、雑誌やCM等で活躍した後、1999年に自身のルーツであるロンドンへ拠点を移す。2006年の帰国後はジャーナリストとしても活動。現在はモデル業と並行して、現代美術ギャラリー「ペロタン」の東京ディレクターとして展覧会の企画やアーティストサポートに携わる。

衣装協力 コート ¥253,000、ジャケット ¥171,600、タンクトップ ¥26,400、ショートパンツ ¥64,900/全てアミ(アミ パリス ジャパン) 、靴 アクセサリー/スタイリスト私物

Photo, Video & Direction:Akinori Ito (aosora) - Video Edit:Airi Kikuta - Styling:Misaki Ito - Hair:Yusuke Morioka (eight peace) - Make-up:Asami Taguchi (Home Agency) - Word:Kyoko Inou - Model:Angela Reynolds