滋賀県大津市、琵琶湖のほとりに小さな工房を構える木工芸職人の中川周士は、洗練を極めた伝統の木桶作りを現代に継承すると同時に、世界が目を見張る革新的なアイデアで、木桶の可能性を押し広げている人物だ。試行錯誤を繰り返しながら、未来に残る新しい木桶の形を模索する中川の、真摯な創作活動を追った。

動画ディレクション:TISCH(MARE Inc.)-  動画制作、撮影:仲谷譲  - インタビュー、文:佐野慎悟  - スタイリング:菅原百合

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京都の名門たる源で学び、中川木工芸を興した祖父亀一と、人間国宝である父清司から受け継いだ伝統の木桶づくりをさらに飛躍させるための場所として中川が選んだのは、琵琶湖畔の滋賀県大津市比良地区。1000mを超える山々と湖の恩恵を同時に受ける、自然豊かなエリアだ。中川はこの地で、木の葉型のシャープな造形をもった、ドン ペリニヨン公式のシャンパンクーラーを生み出した。

「大学で学んだデザインやアートの要素と、伝統的な木桶の製造方法をミックスさせるような形で、新しい木桶づくりに取り組んできました。デザインやアートの世界では、自身の個性や世界観を探求して具現化していこうとする一方で、職人の世界では、なるべく個性を消すように心がけます。それらを掛け合わせた結果、正反対に向かおうとする意識がひっくり返って、そこに究極の個性が表れる。その作用が面白いなって思っています。とにかくこれまでにない新しいものをつくりたい。伝統の文脈から見れば突然変異のような木桶をたくさんつくり続けていくことで、そのうちのいくつかでも、次の時代の環境に適応するものが生み出せたとしたら、木桶が未来に残っていく道筋が見えると思うんです」

中川木工芸比良工房には、若い世代の職人の姿も多い。日常生活で木桶に触れる機会のない若者たちが、木桶の未来を信じて日本各地からここに集まってくるのだ。約700年前に大陸から伝わったとされる木桶づくりは、まだまだ進化の過程にあるようだ。

衣装協力:スズキ タカユキ(ジャケット¥71,500、シャツ¥33,000、パンツ¥40,700)

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